1.学生時代の学び方

皆様、学生時代を思い出してみてください。ここでは学生時代を例にお話を進めます。一般的に学生時代は学校等で参考書や問題集を頼りに学習を進めます。単元の理解を深めるための型を学び、例題や類題を解いて、型を身につけていきます。

基本となる型を使って解く問題
例)木村君は家から最寄り駅までの道のり3,600mを歩いて20分で行きます。木村君の歩く速さは分速何mですか。

過去の知識と組み合わせて解く問題
例)46分で8.28km走る佐藤さんの速さは分速何mですか。

①②に発想を加えて解く問題
例)みきさんは270mを12分で進みます。家から学校までは630mあります。
家から学校までみきさんは何分かかりますか。また、それは時速何kmですか。

など、問題集は様々なパターンの問題を学生に提示して、該当単元の理解を深める工夫をしています。

参考書や問題集を使いわかりやすくかみ砕いて解説を加えるプロとして学習塾などの講師が役割を担っています。講師は絶えず研鑽を積み、学生の学習効果を高めるための指導力を強化しています。

講師は学生にわかりやすく伝えることに加えて、学生が自らできるようになるまでサポートをします。よく言われる「わかるとできるは違う」ということを指導の際の設計に組み入れています。

多くの指導の現場では、一般的によく使われる問題集があります。同じ問題集を使って指導していながらも学生の学力や成績に効果を導くことができる講師とそうでない講師がいるのが現状です。

また、講師には短期的に結果を出すための指導方法と、中長期的に学生の能力を高める指導方法の両輪が求められます。

さらに、学生の解答が正解だとしても、本当にそれが学生の理解を伴っているものかを疑いながら学習をサポートする姿勢も講師には求められます。

算数・数学を例にすると、ある学生の計算問題が全問正解だとします。次に全問正解に達成した時間を計測します。このようにより短時間に正確に処理することが求められるのがいわゆる受験の世界です。

ここに「中長期的に学生の能力を高める」視点として、口頭で出題して暗算により解くというアイデアがあります。筆算で解くことと比べると正答率は下がることが予想されますが、「それでも良い。これは頭を使う時間だよ。」という心理的に安全な環境を用意して、「頭を使う」ことを重視すると良いでしょう。

国語の読解問題を例にすると、設問や下線の前後を読んで答えを導き出して学生が全問正解であった場合でも、特定の箇所を音読させてみることや、本文を隠してその内容を学生が記憶できているかを問うなど「頭を使う」時間を持つことが学生の学習効果をより高めることにつながるでしょう。

これが中長期的に学生の能力を高める指導であり、この指導とは、脳のワーキングメモリに働きかける工夫だと換言できます。

2.大人の学び方

では、大人の場合はこの考えをどのように進めると良いでしょうか。

大人の場合は、時間的な制約があるため「短期間での成果」が求められることはやむを得ません。しかし、大人の脳は、幼少期と比べて神経細胞どうしをつなぐシナプスが少なくなっているという事実に目を向けなければなりません。

神経細胞は使われないと刈り込みが行われてしまうため、シナプスの数が多い学生時代と比べて学習に要する時間がかかります。

大人においては日ごろからできるだけ脳を使うことを意識する必要があり、学生の例で記した「中長期的に能力を高める=ワーキングメモリに働きかける」ということを研修や教材に設計をしておくことが大切な視点となります。

「生涯学習」「リカレント」などがスタンダードとなった現代において、こどものみならず大人の学びにも脳科学の視点をデザインした研修や教材開発をすることで、学習の主体者が最大限のパフォーマンスを発揮できる工夫が求められています。