好奇心をベースにいきいきと自ら学ぶこどもを育てるために必要な前提条件、環境について解説をします。

前提となる環境のひとつに「心理的安全性」が挙げられます。

1.心理的安全性

ハーバードビジネススクールでリーダーシップや組織論の研究をされているエイミー・C・エドモンドソン教授は、「心理的安全性」について次のように表現しています。

『職場で個々の能力を引き出すためには心理的安全性の確保が重要であり、そのためには「否定されない環境」をチーム内につくることが肝要である』

これをこどもの学習に置き換えるとわかりやすいでしょう。

『こどもの個々の能力を引き出すためには心理的安全性の確保が重要であり、そのためには「否定されない環境」を教室や家庭内につくることが肝要である』

人は心理的安全状態にあると、前頭前皮質が活発に動きやすいことが分かっています。前頭前皮質とは、前頭葉、前頭前野、前頭連合野とも呼ばれ、人のおでこの裏から頭頂部にかけてある大きな部位です。思考力や創造力などの役割を担っています。

一方、心理的危険状態にあると前頭前皮質の機能が著しく低下することがわかっています。そしてストレスが過剰になるときの典型的な反応として、以下の3つが挙げられます。

・ファイト … 戦う

・フライト … 逃げる

・フリーズ … その場に立ち尽くす

こどもの前頭前皮質がのびのびと活動できる環境を作ることが大切です。心理的安全性を確保するために何かをしようと追加で働きかけをすることよりも、心理的に安全でない状態、つまり心理的に危険な状態とはどのような状態かを把握してその要因であるストレスをうまくコントロールすることも大切だということができます。

脳は「エラー検知」「粗探し」といったネガティブな情報を発見する機能があるため、大人が「なぜできないのか」とついついこどもができていないところを指摘しがちです。しかし、あえて「できた部分」に注意を向けて「できた部分、理由、もっとよくなる点」を「エピソードとその時の感情」を書き留めて、脳に学習をさせることが重要です。

2.成長マインドセット

好奇心をベースにいきいきと自ら学ぶこどもを育てるために「成長マインドセット」も重要です。

「成長マインドセット」とは、自分の知性や能力が常に成長しうると考える心構えのことです。

「成長マインドセット」を持っている人は、新しいことに挑戦し、苦境にも忍耐強く、周りからの批判や自分のミスから学びを効果的に得ることができ、勉強の成績が高いなど、さまざまなポジティブな側面が明らかになっています。

周囲の大人から「失敗はチャンスだ」「努力で変われる」と言われるより、こども自身が脳のメカニズムを知り「失敗から成長へとつながること」を学ぶ方が「成長マインドセット」につながることもわかってきました。

さて、いかにしてこどもが「成長マインドセット」を理解できるのでしょうか。

自分が成長しているという実感、そしてその記憶を脳に「強く」植え付けていく必要があります。その意識づけがまさに「成長マインドセット」、自分の能力、知能が変化・成長することの理解につながります。

具体的なアプローチとして、自己の成長を書き留めたり、他者に伝えたりすることで「強い」記憶になるようにすることです。

大切なのは「強く」と強調しているように、一過性のアプローチでは「強く」は刻まれません。こどもは日々成長します。毎日「昨日できなかったけど今日できたこと」や「昨日の状態と今日の状態」を書き留めて、自身の成長を実感すると同時に周囲がそれを認め続けることです。

これは周囲が「褒め続けると良い」ということではありません。自身に目を向けて、成長の差を書き留め続けることです。

本章の冒頭に記しましたが、「「成長マインドセット」とは、自分の知性や能力が常に成長しうると考える心構えのことです。こどものある行動を褒めるのであれば、「以前は●●のようにしていたけど、●●さんの様子を見て、困っているようだから助けてあげようという気持ちを持って●●という行動をしたのだね。」というように、「事実と感情」を結び付けて褒めるとより良いでしょう。

3.まとめ

「心理的安全性」「成長マインドセット」とは、一見すると学力向上に直接的に関わる学習メソッドとは異なる視点のようですが、実は学習の前提として最も重要であると言っても過言ではない視点です。

脳科学や神経科学の研究が進むにつれて解明されつつあることも増えています。脳は記憶のみならず感情を司る部位でもあります。大人もこどもも脳のメカニズムをほんの少しでも知ることが、好奇心をベースにいきいきと自ら学ぶこどもを育てるための第一歩です。

<参照>
子どもの考える力を伸ばす教科書(星友啓 大和書房)
『HAPPY STRESS』(青砥瑞人 SB Creative)