1.心理的安全性とは
ハーバードビジネススクールでリーダーシップや組織論の研究をされているエイミー・C・エドモンドソン教授は、心理的安全性について次のように表現しています。
『職場で個々の能力を引き出すためには心理的安全性の確保が重要であり、そのためには「否定されない環境」をチーム内につくることが肝要である』
また、グーグル社の研究報告「チームを成功へと導く5つの鍵」にある1番目の鍵として「心理的安全性」が挙げられており、「不安や恥ずかしさを感じることなくリスクある行動をとることができるか」と定義されています。
人は心理的安全状態にあると前頭前皮質が活発に動きやすいことが分かっています。前頭前皮質とは、前頭葉、前頭前野、前頭連合野とも呼ばれ、人のおでこの裏から頭頂部にかけてある大きな部位です。思考力や創造力などの役割を担っています。
2.心理的に危険な状態とは
一方、心理的危険状態にあると前頭前皮質の機能が著しく低下することがわかっています。そしてストレスが過剰になるときの典型的な反応として、以下の3つが挙げられます。
- ファイト…戦う
- フライト…逃げる
- フリーズ…その場に立ち尽くす
チーム内のルールなど、メンバーの前頭前皮質がのびのびと活動できる環境を作ることが大切です。したがって、心理的に安全でない状態を把握してその要因であるストレスをうまくコントロールすることが大切だといえます。
部下やチームメンバーに何かを学んでもらいたいならば、脳を心理的安全な状態にしない限りはその学びの効率は非常に悪くなります。
脳は「エラー検知」「粗探し」といったネガティブな情報を発見する機能があります。チームを束ねる方は、部下やチームメンバーに対して「なぜできないのか」とネガティブな点を指摘することがあるかと思います。しかし、ここではあえて「できた部分」に注意を向けて「できた部分、理由、もっとよくなる点」を整理する役割を担うと良いでしょう。具体的には、「エピソードとその時の感情」を脳に学習させることが重要です。
エラーに対する「寛容さ」は、従業員が失敗から学ぶことができる環境であり、ミスに対して非難や制裁ではなく、改善策を模索する文化として定着することにつながります。
3.心理的安全性が高い組織・チーム
心理的安全性が高い組織・チームは以下の効果が見込まれます。
- イノベーションの促進・・・従業員が新しいアイデアや方法を提案し、リスクを取って挑戦する
- コミュニケーションの改善・・・オープンなコミュニケーションが行われ、従業員同士や上司と部下の間で信頼関係が築かれる
- パフォーマンス向上・・・従業員が自身の能力を最大限に生かして、高いパフォーマンスを発揮する
心理的安全性の高い組織・チーム作りには、多くの方々の協力を得ながら時間をかけて築き上げていく企業の姿勢が求められています。
4.脳力を低下させる「脅威」
不確実性が高まる世の中にあり「脅威が人間の脳力を低下させる」という記事もあります。
Harvard Business Review『自分の脳について無知なままでは、不確実性に対処することはできない』では、不確実性が増す日常において脅威が人間の能力を低下させる、と分析しています。
私たちの脳は進化の過程から、パターン認識や習慣化には長けていますが、不確実性を嫌うようにできているようです。
脅威にさらされると、モチベーションや集中力が落ち込み、目的意識さえも見失ってしまいます。
以下に引用をします。
人間の脳は何が得意で、何が驚くほど不得意かを知っていれば、単に生き延びるだけでなく、大きな成功を収めるためにどのような戦略が必要とされているかが、はっきり見えてくるだろう。
脅威にさらされると、モチベーション、集中力、アジリティ(敏捷性)、協調行動、自制心、目的意識、
そして全般的なウェルビーイングも落ち込む。
加えて、脅威を感じると、ワーキングメモリー(作業記憶)の働きが著しく低下することもわかっている。問題解決に取り組もうとしても、一度に多くを頭の中に留めておけず、長期記憶から多くの情報を引き出すこともできなくなってしまう。Harvard Business Review『自分の脳について無知なままでは、不確実性に対処することはできない』
心理的安全性は心理的危険性とセットで考えて、予測することを楽しむという姿勢で部下やチームメンバーの心理的な環境を整えていくと良いでしょう。
<参照>
『自律する子の育て方』(工藤勇一、青砥瑞人著 SB新書)
『HAPPY STRESS』(青砥瑞人著 SB Creative)
『自分の脳について無知なままでは、不確実性に対処することはできない』(Harvard Business Review)🔗